商略AI

個人開発SaaSの売却相場は、希望価格だけでは分からない

更新 一次調査5分

個人開発SaaSの売却相場をM&Aサイトで調べると、最初に見えるのは売り手の希望価格です。希望価格、掲載終了、成約価格を分けないまま件数や倍率を出すと、実際に売れた相場のように見えてしまいます。

自分も最初の調査で、ラッコM&Aの掲載案件約160件をタイトルで「実売買160件」と呼び、月間利益の10〜20倍が相場だと書きました。公開情報からそこまでは言えませんでした。

その後、国内M&Aサービス5つの公開案件と公式成約事例を確認しました。月間利益を開示した小規模Web事業4件では、希望価格が利益の5〜19倍でした。ただし4件すべてがSaaSではなく、成約価格でもありません。SaaSの成約倍率には使わず、売却を考えるなら継続収益・利益・顧客集中・運営工数・引継ぎ条件を先に説明できるようにします。

個人開発でマーケティング支援SaaS「商略AI」( https://shoryaku.net )を作っていて、自分の出口を考えるために調べました。

最初の160件調査で確認できた範囲

ラッコM&A「Webサービス・アプリ」カテゴリを手作業で集計しました。

項目 内容
サイト上の母集団 全33ページ・約730件
収集範囲 1〜6・15・25ページ
収集件数 約180件
重複除外後 約160件
母集団に対する割合 約22%
選び方 非無作為。ページ順の偏りあり
数字の出所 原則として売り手の自己申告

約160件は、掲載中と掲載終了、売上開示と非開示、希望価格と成約情報が混ざったサンプルです。160件すべてが成約したわけではありません。 また、Webサービス全体や個人開発SaaS全体を無作為に抽出したデータでもありません。

この調査からは「公開案件で何が売り文句になっているか」を読めます。一方、成約率、最終価格、平均倍率、市場全体の売上ゼロ率は出せません。

公開情報は4種類に分けて読む

5サービスを横断したとき、同じ「案件ページ」でも意味が違いました。

公開情報 読めること 読めないこと
掲載中の希望価格 売り手が望む金額 その金額で買い手が付くか
受付終了・販売終了 掲載が終わった事実 成約したか、いくらだったか
売上・利益・PV 売り手が説明している事業状態 監査済みの実績か
公式成約事例 公表された成約額と事業規模 市場全体を代表する倍率か

同じ案件が複数サービスに掲載されている例もありました。タイトルと価格が同じ案件を別件として合算すると、件数も比率も膨らみます。そのため、5サービスを合計した「SaaS案件数」や「成約率」は出していません。

小規模Web事業4件では、希望価格が利益5〜19倍だった

継続顧客か利益を公開していた小規模案件の例です。すべて希望価格で、成約額ではありません。

案件 月間利益 希望価格 見かけの倍率
フリーランス向けマッチング ¥258,500 ¥4,900,000 19.0倍
有料顧客付きAI営業ツール ¥100,000 ¥1,100,000 11.0倍
Web対策事業 ¥280,000 ¥2,000,000 7.1倍
仕組み化されたSES事業 ¥350,000 ¥1,900,000 5.4倍

5〜19倍という幅は、この4件で売り手が置いた希望値の範囲です。しかし、受付終了した案件も成約とは限らず、4件にはマッチングやSESも含まれます。SaaSだけの希望倍率にも、「小規模Web事業は月間利益の20倍で売れる」という相場の裏付けにもなりません。

一方、BATONZの公式成約事例には、年商3,000万〜5,000万円、営業利益2,000万〜5,000万円の中小企業向け業務SaaSが8,000万円で譲渡された例があります。これは成約額ですが、利益規模がマイクロSaaSより大きく、運営会社が選んだ成功例です。小規模案件へ同じ倍率を移せません。

コードだけの案件と、継続事業を分ける

複数サイトには、完成済みSaaSや業種別ツールへ数百万円の希望価格を付けた案件がありました。ここから確認できるのは、売り手がコードや完成品へ価格を付けていることまでです。その価格で買い手が付くかは分かりません。

継続顧客や利益がある案件では、有料顧客、取引先、運用マニュアル、必要な作業時間などが説明に含まれていました。だからといって「買い手は顧客数だけを見る」とは言えません。220店舗の有料基盤があっても、低売上・赤字の案件もありました。

読者が自分のSaaSで残すべきなのは、次の組み合わせです。

  • MRR、ARPU、有料顧客数、継続・解約
  • AI・インフラ・決済・サポートを含む粗利
  • 上位1社・3社への売上集中
  • 顧客獲得経路と、その経路の再現性
  • 創業者が1社へ使う作業時間
  • 外部API、特定個人、古い基盤への依存
  • 移行と引継ぎに必要な手順

コードや機能数だけで希望価格を作るより、買った後も同じ収益を維持できるかを説明する材料を残します。

初回記事で強く言いすぎた4点

公開時の表現 現在の訂正
実売買160件 掲載・掲載終了・一部成約が混ざる約160件
買い手は継続顧客だけを評価する 顧客、利益、継続、工数、移管条件を組み合わせて見る必要がある
PVと売上は相関しない PVと月商を両方開示した8例では、PV単独で月商を説明できなかった。相関係数は未算出
実成約相場は利益10〜20倍 小規模案件の希望価格で5〜19倍を確認。成約倍率は未検証

PVの8例はM&A掲載8件では、PVの多さだけで月商を説明できなかった、AI関連SaaS 11件はM&A掲載のAI SaaS 11件は、すべて月商ゼロだったに分けています。どちらも掲載サンプルの範囲を明記しました。

自社では、売却試算より先に5つを測る

商略AIは有料顧客がゼロなので、現在価値や売却額を計算できる段階ではありません。次の条件がそろうまで、倍率を事業目標にしません。

  1. 有料顧客が5社以上いる
  2. 3か月以上の継続データがある
  3. 月次でMRR・解約・粗利を説明できる
  4. 1社あたりの個別作業時間を説明できる
  5. 上位1社を失っても事業が残る

条件がそろった後に、複数サービスへ同じ匿名概要を出し、査定額だけでなく想定買い手、必要資料、手数料、近い成約事例を比較します。

まとめ

  • 約160件は非無作為の掲載サンプルで、すべての成約を集めたデータではない
  • 希望価格、掲載終了、公式成約事例を分けないと「実売買相場」にはならない
  • 小規模Web事業4件の希望価格は月間利益5〜19倍だったが、SaaSだけの倍率でも成約倍率でもない
  • 価格より先に、継続収益、利益、顧客集中、運営工数、引継ぎ条件を残す
  • 有料顧客ゼロの自社では、売却額を置かず、有料5社と3か月継続を先に測る

調査は2026年8月24日と8月29日時点の公開情報に基づきます。案件・価格・各サービスの料金は変わるため、実際の判断前に公式ページを再確認してください。